2019/01/01肝障害と言われたら

内科 齋藤勝也(日本肝臓学会専門医)

はじめに

 健康診断で肝酵素検査のAST(GOT)、ALT(GPT)、γ‐GTP、等の項目が正常 値をオーバーし「肝障害あり、再検査してください」と報告が来たけども、毎年の事 だし、お酒飲んでいるし、症状なにもないし、面倒くさいからほっとこう・・・と皆さん思ったことがありませんか?
 健康診断でなんらかの異常を指摘される人は約80% もいます。肝障害を指摘される人は全受診者数の25%と一番多い異常です。肝臓とい う臓器は再生力が強く肝臓の70%を切除しても十分機能を果たせます。
また「沈黙の 臓器」といわれる様に、ひどくならないと症状が出現しません。ですからこれだけ多 くの方が健康診断で異常を指摘されていても放置されている人が多いのではないで しょうか?

肝障害の原因

ではどのような事が原因で肝障害がおきるのでしょうか?

➊ウィルス性肝炎
肝炎を引き起こすウィルスに感染し、それが原因で急性肝炎や慢性肝炎になることが あります。急性肝炎で黄疸(目や皮膚が黄色くなること)や倦怠感が出現すれば病院 へ行って判明しますが、軽いとちょっとした疲労感のみで回復してしまうこともあり ます。一過性の急性肝炎で治ればほとんど問題ないですが、新聞やテレビで報道され ているC型肝炎ウィルス(HCV)に感染すると7割ぐらいの人は持続感染(キャリ アー)をおこし半分ぐらいの人は慢性肝炎、すなわちALT(GPT)の持続的異常を呈す るようになります。しかし残りの半分ぐらいの人はほとんど正常値で、たまに異常値 がでる程度です。ですから年1回の健康診断だけでは引っ掛かりにくく、症状もない ため放置されがちですが10年、20年を経て肝機能が徐々に悪化し気づいたら肝硬変、 肝臓癌になって病院にやってくる方を見かけることがあります。肝硬変末期になると 著しく日常生活に制限が加わりQOL(Quality of life)を損ねてしまいます。わが国 では就労人口の1%程度、つまり100人に一人がHCVの持続感染を起こしているという 報告があります。ですから肝障害を指摘された方は一度血液検査でHCV抗体検査を受 けてください。
またB型肝炎ウィルス(HBV)の持続感染も100万人以上いると推定されています。HCV のキャリアーより肝酵素の異常を呈することが少ないようです。HBVに関してはわが 国ではワクチンの普及により新たな母子感染はほとんど見られませんが、最近では性行為感染症としての問題も出てきています。HCVに比べ急速に肝機能の悪化(線維 化)を起こし若年で肝硬変や肝臓癌を発症することがあり注意が必要です。
以上の様に放置しておくと怖い病気なので、肝障害を指摘されたら一度はB型、C型の 肝炎ウィルスのチェックをしてください。
当診療所では慢性肝炎ガイドラインに沿ったC 型慢性肝炎に対するペグインターフェロン+リバビリン併用療法やB型肝炎に対する エンテカビル、ラミブジン等の核酸アナログの投与を積極的に行っております。ぜひ 外来でご相談ください。またウィルス性肝炎の詳細厚生労働省 のホームページにありますので参考にしてください。

厚生労働省 のホームページ

■ 肝炎総合対策の推進
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/index.html

➋アルコール性肝障害
こちらは読んで字の如くお酒の飲み過ぎによるものです。適度なアルコールは体に良 いとされていますが検査で異常値が出るほどは飲んではいけません。アルコールを取 り過ぎるとアルコール性の脂肪肝を起こします。脂肪肝は肥満や糖尿病、むりなダイ エットなどでも起きます。さらに飲み過ぎるとアルコール性の慢性肝炎となり最後に はHCV、HBVの慢性肝炎と同じアルコール性肝硬変となります。脂肪肝にならない程度 の適度なアルコール量としては20g/dayで、日本酒なら1合程度、ビール大瓶1本程度 といわれています。よく「薄めて飲んでいるから大丈夫」と思っている人がいます が、エタノールの摂取量が重要なので注意してください。肝硬変になる前ならお酒を やめれば肝臓は元に戻ります。またアルコール依存症になるなど社会的にも問題に なっていますので十分注意してください。

➌非アルコール性 脂肪肝NAFLD(Non Alcoholic Fatty Liver Disease)
こちらはお酒を飲まない人がなる脂肪肝です。定義ではお酒を飲んでも前述の量以下というのが条件になります。健康診断で腹部の超音波やCTスキャンをするとすぐにわ かります。

メタボリックシンドロームが最近は話題になっていますが、メタボの肝臓 バージョンです。食べ過ぎなどで肝臓に中性脂肪が貯まりフォアグラのようになった 状態です。健康診断受診者の10%ぐらい、肝障害の原因の約30%といわれています。 一昔前「脂肪肝は症状もなく悪化はしない」と放っておいたのですが、最近NAFLDの 中の10%ぐらいに肝硬変に進展する病態があるのがわかってきました。

非アルコール 性脂肪性“肝炎”NASH (Non alcoholic SteatoHepatitis)です。HBV、HCV、アル コール性などと同じ慢性肝炎を起こし肝硬変、肝臓癌に進展していきます。メタボな人も多いのでダイエットや運動をしてバランスの良い食事をこころがけてください。

➍そのほか
自己免疫性肝炎、原発性肝硬変と言われる特殊な肝臓病、薬剤性、漢方薬やサプリメントでも起こしますので十分注意が必要です。

最後に

肝障害はさまざまな原因で起こります。持続して肝障害を起こしている状態はよ くありません。
ぜひ外来でご相談ください。